知財の考え方

6月7日の朝日新聞1面に「社員の発明、会社に特許権」という見出しがでました。

 

 

経団連からの要望で、企業を社員が起こす高額な訴訟から守るための対策が背景にあるとなっています。現在は従業員にある特許権の帰属を見直す、というのが知的財産政策に関する基本方針(骨子)に明記されています。

 

およそ本音の背景は参議院選をにらんで経団連関連の票を得たい、という自民党の意向ではないかというのが私の考えですが.....。

 

 

政治的な部分の話はここでは置いておくとして、技術者の考える知財の扱い方という所に主眼を置いて私なりの見解を述べたいと思います。

 

 

 

私の今いる会社では、発明提案をし、出願する時点で「知財権譲渡」の意思を示す契約書の提出を求められます。法律上、知財権は発明者にあるものの、出願の時点で会社に権利を譲渡するというのが一般的なのではないでしょうか。微々たる報酬は払うものの、社員には基本権利はない、というのは事実としてあると思います。

 

 

ただし考えようによっては、会社の経費で設備、道具、開発や研究する時間の人件費、さらには出願費用など、企業も社員の出す発明に多くのお金を既に支払っている、という事実もあります。

 

過去に企業が社員の訴訟に対して数千万円以上の支払いをした6、7件を除けばその大多数(99%以上)は企業の持ち出し(すなわち企業から見ると赤字)なのではないかな、と考えています。単独技術で会社に莫大な利益を生み出すおいうのは非常に稀な話で、多くは複数の技術(デザイン、宣伝営業も含め)の組み合わせで成り立っているのもその一因ではないでしょうか。

 

 

そう考えると「大多数」に対しては、経団連の主張はごもっともとなります。

 

 

しかし、この話とマスコミが大好物な主張である「知財に対する有能な人材の海外流出」というのは「考える技術者」にとっては少し拙速な話と捉える内容と考えます。これを短絡的に捉え、「海外の企業のほうが報酬が多いからそちらへ転職しよう」というような流れに本当になってしまうかもしれません(特に韓国や中国企業への流出など)。これは、日本企業にとっても不幸ですし、何より当の技術者、研究者にとっても幸運かどうかは疑問でしかありません。

 

(ここから先の話は、あくまで一般的な大多数の技術者の話であって、専門性や性格、キャリアに突出している技術者はこの限りではないです)

 

 

日本企業にとってはもちろん人材流出で不幸になります。しかしながら、アジアや欧米の企業に行けたとしても、仕事の「成果(結果がすべて!)」が継続的に発揮できていれば問題ありませんが、上手く成果が出せなくなったら「クビ」になるでしょう。

 

極めて高い人件費、報酬というのはそういうものがつきものです。

 

日本企業と異なる、このような点を熟考した上でその道を選ぶ覚悟があるのであれば、それはそれで素晴らしいのではと思います(既にプロ意識が前面にでているので)。ただ、一般的には他国の企業で働くというのは、国籍問わず技術者はあまり得意でないような気がします(言葉も文化も違いますし)。

 

私個人的には、大多数の日本人技術者は日本企業をベースに生き方を考えたほうが、長い目で見た時は幸せかと思います。

 

では、私ならどうするか。

 

 

私なら直接会社に知財に関する契約を結ぶ提案をしてみます。

 

 

例えば一つの知財にかかった経費を計算し、知財化した場合に得られる売上や利益を計算し、それを基に必要と考える報酬を要求します。これらの費用に関する考えは会社と議論することになるでしょう。ここで折り合わなければ、初めて日本の他の会社を考えます。日本という国の文化はやはり日本人に合っていますので。

 

このような、1社員と会社が対等に話をするという技術者個人の一つ一つの取り組みが、知財に対する新しい日本企業固有文化の誕生と発展につながるかもしれません。別に他国の文化をまねる必要はありません。文化を創ればいいのです。

 

 

このような取り組みを行ってもらちが明かず、となった場合に初めて海外という考え方になるのではと思います。そしてそうあってほしいです。

 

 

ここで私が強調したいのは、

 

技術者も、技術の新規性を報酬として認めなさい、という目線だけでなく、その技術がどのような会社の利益(お金だけでなくブランドイメージなど含め)に結び付くか、という所まで含めて考えられるようになるべきだ。そして、日本固有の知財に対する技術者文化を創出すべきだ。

 

という所です。

 

一言でいうと「バランスの取れた日本技術者ならではのプロ意識」という感じでしょうか。

 

 

知財権というのは技術者の成果アピール方法の一つとしてはとても大切だと思っています。

 

 

ただし、これの扱い方については個々人の技術者がよく考えるべきと思います。

 

 

既存の考えにとらわれず、マスコミにも流されず、自分が正しいと考える道を創り、そこを進むという姿勢が、技術者の「知財」にも求められているのではないでしょうか。

 

 

上述は私の私見でしかありません。私も模索中です。色々な人の意見も聞いてみたいところです。