ノーベル賞を獲得した元サラリーマン技術者、中村修二氏の語ったことについて。
ユニバーサル技術者のShuichiro Yoshidaです。
あえて触れていませんでしたが、今年のノーベル物理学賞は日本人研究者がそうなめでしたね。
そして待ちに待った中村氏のインタビューが朝日新聞に掲載されました。
大きく分けて2点でしたね、中村氏がおっしゃっていたのは。そのうち1点について、個人的な見解も含めて本ブログでは述べさせていただきます。
「特許報酬会社主導は問題」
社員が仕事で発明した特許について、特許庁の特許制度小委員会は17日、現行の「社員のもの」から「会社のもの」にするという特許法改正案を提示しました。報酬の支払いを企業に義務付けるなどの待遇悪化はさけることを盛り込んでいるものの、企業経営者の言い分を強く反映した内容となっています。
中村氏はこれに対して、
- このような特許法改正は猛反対
- 経済界の言い分のみを認め、大企業だけを優遇する内容となっている
- 優秀な技術者や研究者が起業をするというシステムがほとんどないことは大問題
- 発明者の報酬を盛り込んでいるが、その内容を企業側が決めるというシステムは絶対にダメ
- 自分が青色発光LEDの裁判で企業の研究者や技術者の待遇改善につながる動きをしてきたのに、すべてを逆方向に向かわせようとしている
と述べています。「スカッ」とする歯切れのいい言葉ですね。
まず、この記事について意見を述べる前に、特許出願について、管理人が属する企業を例に、現状をご説明します。今の特許法に基づくと、発明は社員のもの、というのが原則です。そのため、何らかの発明に関して出願をする必要がある、となった場合、出願の条件として特許の権利を会社に委譲する、という書類を提出しなくてはいけません。
「ほぼ、しなくてはならない」というニュアンスであっています。
つまり、出願前の段階で発明の権利は会社のものになってしまいます。企業の経営層は、このようにして、可能性のある訴訟に備えるという意味合いがあると思います。この現状はまずご理解ください。
さて、これに関し管理人の意見を述べます。
まず、大きな概要として中村氏の意見に異論はありません。この方は、管理人をはじめとしたサラリーマン技術者の希望の光のような方です。
しかしながら、企業の研究開発の現場というのは刻一刻と悪化の一途をたどっており、上述した中村氏の議論以前の所で立ち往生しているという事実は意外に知られていません。
どういうことかというと、会社の利益を生み出そう、という新しい発見につながるような研究開発をやろうという土壌が今、日本企業にはほとんどない、という現実です。
一例を上げます。全体を通して劣悪とまでは行かない、管理人の居る会社の研究開発の環境ですが、予算が厳しくなったという理由だけで、いわゆる研究予算をすべて凍結させました。「テーマの集中と選択」という最も抽象的でもっとも組織上層部にとって都合のいい理由でした。そして、研究の域を脱していないものを、徹底管理する開発フェーズに移すというものです。
お金を減らし、そして人も減らし、自由に研究できる環境を奪われて、それでも「次につながる新しい技術を発明、開発せよ」と言われるとどうなるでしょうか。
お金が無くとも、色々な事業所からかき集める、外部の資金を調達するなど、可能性が無いわけではありません。
人が居なくても、自分で業務調整をしたり、他の人の力をかりたりすることで少しずつでも前に進むことができるでしょう(これは、管理人が5年以上続けていることです)。
しかし、最も大切なのは、研究者、技術者の「熱意」という「気持ち」。
原動力の根幹であるこの部分を失っては、発明は企業のもの個人のもの、という以前に「発明」につながる、仕事に対するやる気を失う、という最悪の事態に陥るのです。
今、技術を主体とするベンチャー企業や企業の創業者(社長じゃないです、その会社を始めた最初の人です)が経営陣として健在でなどを除き、企業組織の上層部にいる人間の多くはたたき上げで研究開発をしてきた経験が皆無です。
自ら研究開発をやったことのない人間や、政治力や組織にしがみつく忍耐力だけで組織上層部に登ってきた人間が、「発明に値するような研究開発」に必要な「投資という考え」を持っていることを期待してはいけないでしょう。
管理人はこの原点部分こそが大問題だと思っています。だからこそ、経済界の要望も「金、金、金」と中村氏を一例に、発明を果たした社員からの訴訟を恐れた特許法改正という考えになっていると思います。技術をはぐくもうという考えはもはや企業には存在しないのかもしれません。
これに対する対策ですが、それは自らが会社を興す「起業家」になるということです。自分がやりたいようにやるには、自分で資金を用意し、必要な人を用意し、投資をしてもらうということしか方法はありません。今はエンジェル投資家などもいるので、その技術内容と将来性を感じてもらえれば技術で生計を立てることも夢ではないでしょう。
中村氏は
「ベンチャーをはぐくむシステムが日本にはない、起業家が少ない」
とおっしゃっていますが、中村氏の時代よりも、起業についてはこちらの状況は良い方向に変わってきています。メディアで伝えられるよりも「潜在的」起業家は大量にいますし(表に出てきていない)、インターネットという世紀の大発明を用いて低費用で事業を実際に拡大している人も周りにかなりいます。
最近の日本の起業家は何か一つの太い柱で一本立ちというより、中くらいの柱を多く用意している、というイメージが近いです。複数の柱を用意して、経済的リスクヘッジをしているのでしょうね。太い柱がなかなか無いので、メディアではあまり取り上げられないのでしょう。あとは、会社を続けながら数千万円の売り上げを叩きだしている「複業」起業家もかなりいます。この人たちは現職に存在を知られるとまずいので、表舞台には出てきません。
もちろん、中村氏のいる米国に比べるとその量は圧倒的に少ないですが、そもそも違う国なので、例えば起業家の絶対数の差異はもちろん、複数の小事業を用意するというアプローチそのものに違いがあってもいいと思っています。
管理人も上述した苦境を脱する方法は何なのか、模索する日々です。
最後に、意外に知られていませんが、中村氏はサラリーマン技術者時代に学術論文を書いて博士を取った方です。偶然にも管理人と同じ動きをされている.....。
ただ、以下の中村氏の言葉を読んだ時に、やはりそうかと納得した管理人。
(中村氏のインタビュー記事)
- (中村氏に対して)独創的な研究を生むには何が必要ですか
「私も日亜化学でできたというのは、入って十数年は良いベンチャー企業だったから。創業者がお金を出し、一切干渉しないという理想的な環境だった。(中略)個人で自由にできるから独創的な発明ができる。」
はは......。ですよね。
この環境を求めるか、自分で創るかしかないということが、この中村氏の言葉からもうかがえます。
最後までお読みいただきありがとうございました。