「アクセプトされる論文の書き方」の筆者で、STAP細胞論文不正疑惑、日本人の論文投稿数減少傾向に危機感を覚え、全国の大学行脚で大学生に学術論文を書く意義や書き方を教えておられる、名古屋大名誉教授の上出洋介先生とお会いしました!上の写真の通り、サインまでいただきました!オーロラは創造の光....。素晴らしいキャッチフレーズです。
大学院時代は諸事情で、論文はもちろん(スキルもありませんでしたが....)、学会にも出られず(未だに学会で発表した経験なし)、それでも自分の専門性を客観的に評価してもらい、その道の専門家と将来にわたり議論を継続できる学術論文を投稿する、という信念をもって就職したのが10年前。
若手メンバーの抜擢などで、チーム内の人材育成システムを構築して自らの時間を捻出して、自らの研究テーマを持つための試みを始めたのが5年前。
社内外で独り立ちを目指すユニバーサル技術者を名乗り始め、開発業務の傍らで、自分の研究テーマを少しずつ始められたのが3年前。
そして、生まれて初めて論文を投稿したのが1年前。
それが掲載されたのが今年の2月。
今年は、研究予算を完全に凍結され、チームメンバーの引き抜きでチームが崩壊している状況でも7月に2報目を投稿し、10月に掲載決定。2週間ほど前に3報目を投稿し、現在査読中。
可能であれば年内に4報目を書こうとしています。
この取り組みは孤独でした。数百人いる今の事業部で、設立後のこの10年間で誰一人投稿した人は無し。そして、研究業務は開発業務に対して優先順位が大幅に低下するという現実の中での孤軍奮闘でした。
しかし、遂にそんな動きに対し、その意義と障害の多さを理解してくださる上出先生とお会いすることができたというのがどのくらい管理人にとって嬉しいことなのか、何となくでもご想像いただけるかと思います。
上出先生は、研究者として宇宙空間物理学の権威であるのは言うまでもありませんが、
- Geophysical Research Letters
- Journal of Geophysical Research-Space Physics
というインパクトファクターで3や4を超えるような(もちろん、この指標だけで雑誌の格付けを議論するつもりはありませんし、異分野間で比較する意味はないと上出先生は本の中でも書いています)一流誌のエディター、つまり編集者を11年も勤められた方です。
つまり、科学誌の裏側をご存じな方なので、学術論文とは何ぞや、ということについて専門家ということです。
そのような方と、平社員を続けながら細々とつづけた研究で論文を数報かいただけの管理人が先生と面談できるとなって胸躍らせたのは想像に難くないかと思われます.....。
前置き長すぎましたが、会うとなった当日。
どのような方なのかと、楽しみにしている一方、少し緊張していました。
メールでは気さくな感じでしたが、実際にお会いしたら人柄が違うというのは良くある話。
そこに現れた新聞で見たお顔。
穏やかな言葉で、「どうもはじめまして。上出です。」と一言。
第一印象は、
「管理人の父を、より穏やかに、そして気さくにした感じの方」
偶然にも、管理人の父と同じ年の生まれ(昭和18年)だったのです。
さて、管理人と上出先生の対談は穏やかにスタート。
ここで問題です。
この面談はどのくらいの時間続いたでしょうか?
なんと、
5時間!
いやぁ、その話続けられる上出先生の体力に敬服。
それ以上に驚いた事。
「このくらいの時間は初めから想定していました」
なるほど...。管理人はさすがに初対面での5時間の面談は想定していませんでした...(汗)
さて、話の中で終始感銘を受けたこと。
それは、
「大学・研究機関でのキャリアをお持ちにもかかわらず、企業の研究者、技術者の苦境をよくご理解いただいている」
ということです。
管理人が現状を細かく説明しなくても、
「工学系はお金がかかるので、研究予算を凍結されると研究は何もできなくなりますよね。理学は理論部分が研究の主体なので、研究予算は工学よりは低くても進められます。」
「企業が自社で得た利益をもとに行っている研究は、企業が機密にするのは当然で、論文で公開できる範囲や公開のやりかたに大きな制限があるのは、研究者としてはやりにくいところですよね。」
といったことをスラスラとおっしゃるのです。恐らく、似たような状況にある人間とお話しした経験がおありなのでしょう。
企業に属する技術者サラリーマンが論文投稿するということの障害の多さと高さ。
これを学術論文の本質をご存じの専門家にご理解いただけたことが何よりの救いでした。
それでも、
「事前準備をしたうえで、フランクフルト空港近くのホテルにて、4時間で共著の英語論文草案を作成したことがあります」
とうかがったときは違う世界の方だと納得しました.......。
そして終始穏やかな雰囲気で進む面談。科学誌のエディタ、宇宙空間物理学の権威であることをあまり感じないほどでした。
が、何かの話の流れで、管理人の息子が宇宙に興味があって、管理人も質問に答えるのが難しいことがあると話した時、上出先生が
「オーロラは上空のどこでできるかご存知ですか?」
と一言。笑顔の奥にある眼光の鋭さを感じ、少し焦る管理人。
「大気圏の外側ですか?」
と答え、
「大気圏というのがどこを意味されているか分かりませんが、上空100キロほどにある電離層で出現するのが一般的です。」
と、丁寧にご説明してくれました。自分の知見の無さと、丁寧に教えてくださるその教育者としての姿に敬服です。
そしてさらに面白いお話をしてくださいました。
「今、地球の磁場が弱まってきていることがわかっています。このまま地球の磁場が弱まれば、相対的にオーロラの原因である太陽風が強まることと同じ現象となり、計算上は800年後には東京でもオーロラがきれいに見えると思いますよ。もちろん地球磁場の方向に沿って現れるので、東京で見える場合はカーテンのように見えるのではなく、空を覆うように見えると思いますが。よく、気温が低いとオーロラが見えると誤解されている方がいますが、太陽風のシールド(盾)の役割を果たす地球の磁場の強さが大きな影響を与えている、ということは意外にも知られていませんね。」
なるほど.....。興味深いお話。
そして、さらに意外なお話をしてくださいました。
「太陽風の強さという計測結果をベースに、私の”企業秘密の理論”に基づいてオーロラの出現を高い精度で予測することができます。しかし、オーロラの発生現象についてその詳細はまだわかっていないことがほとんどなのです。」
これこそがオーロラは神秘だといわれるゆえんなのですね.....。
ここにも書ききれないくらいの色々な話をしてくださいましたが、権威的研究者から直接色々な話を聴けたこと、感激の極みです。
「ご子息が宇宙に興味あるとのこと、いいですね。来年、コニカミノルタオーロラ展をやるので是非来てください。」
興味のある長男や宇宙好きの奥様のためにも是非遊びに行きたいと思います!
さて、最後に上出先生が強く感じる危機感を述べさせていただき今日のブログを終わりにしたいと思います。
「最近、日本の研究者の論文投稿数が減少傾向にあります。これの根本的原因の一つに、日本の研究者のハングリー精神の低下があるのではと感じています。私はアメリカの政府研究機関にて、国籍未考慮の厳しい競争を勝ち抜かなければ生きていけなかった。そのため、今の日本の研究者、技術者の環境が”ぬるま湯”であることがよくわかります。」
この言葉は実際の職場でも強く感じています。
会社の経営者は社員に対して自由に研究できる環境や予算を与える余裕と気持ちがなく、現場の技術者も、何とかして新しいものを生み出そう、という危機感や使命感が薄いということを強く感じています。
管理人は微力ながらその状況に警鐘を鳴らす意味でも自ら論文を投稿し、世界と勝負することの大切さを訴えていますが、社内でそのことを理解してくれている人はごくわずかです。会社の上層部が「論文投稿をすることはいいことだ」と理解してくれているのが唯一の救いです....。
最後までお読みいただきありがとうございました。